2019年11月に「audio-technica」からバランス接続に対応した2種類の有線ヘッドホン、『ATH-AWKT』と『ATH-AWAS』が発売されました。どちらも「audio-technica」伝統の“ウッドモデル”になります。
各所のレビューを読んだ感じでは『ATH-AWKT』の方が自分の好みに合いそうでした。しかし『ATH-AWKT』はかなりセンシティブな様子で、いまのオーディオ環境では性能を引き出せない気がする。
無難に行くなら『ATH-AWAS』の方が良さそうだ。しかし『ATH-AWKT』も後ろ髪を引かれる‥‥。
どちらを買おうか非常に迷った末、Amazonの期間限定セールに引っ張られる形で『ATH-AWAS』の相場が5000円ほど値下がりしたタイミングで、思い切って『ATH-AWAS』を購入しました。
『ATH-AWAS』のハウジングには、非常に貴重な、樹齢100年を超える「アサダ桜」が使用されています。強度と耐久性に優れており、木材ならではの自然な音の響きを生み出すとのこと。
ドライバーは直径53mmの大口径。振動板にDLC(Diamond-like Carbon)コーティングが施されています。また、音の再現性を高める一体型純鉄ヨークを使用した強磁力マグネットや、全ての周波数帯域で音の輪郭まで細やかに表現する高純度無酸素銅(6N-OFC)のボビン巻きボイスコイルを採用。これにより、旧来のaudio-technicaには無かった、革新的な音が目指されています。
あらためて各所のレビューをまとめてみたいと思います。
伝統とは異なる新しい音への挑戦。どこかを強調することなく、低音から高音まで丁寧かつバランスの良い音作り。接続する機器をえり好みせず、高いポテンシャルを発揮する。曲のジャンルを問わないオールラウンダーだが、中でも現代的な曲調にフィットしやすい。
「audio-technica」と言えば、きらびやかな高音・中音が特徴ですが、その伝統が『ATH-AWAS』ではどのように“変革”されているのか、興味を引かれます。
さて、まずはパッケージを開梱していきます。
スリーブの裏側には、注意書きなどが多言語で印刷されています。
また、右下に2枚のシールが貼られています。シールには数字やバーコードが印刷されていますが、「1944」はシリアルナンバーなのでしょうか?
内箱は布張りで高級感が演出されています。
磨き上げられた「アサダ桜」の艶やかなハウジングがとても良い感じです。
「アサダ桜」の木目は比較的均一な模様を描くらしく、見た目にハズレな個体はなさそうです。
ヘッドバンドのスライダーは動きが少し固めに作られています。伸ばした状態でしっかりと固定されます。
ヘッドバンドの内側には「MADE IN JAPAN」が刻印がされています。
付属品はシンプルで、2種類のケーブルと取扱説明書だけ。
- 6.3mmステレオ標準プラグのアンバランスケーブル(3m)
- XLR(4pin)コネクターのバランスケーブル(3m)
- ユーザーマニュアル
- 取扱注意ガイド
残念ながら、4.4mm(5極)端子のバランスケーブルは同梱されていません。
そこで、別売りの『HDC114A/1.2』を購入しました。これはDAPでの使用を想定してか、ケーブルの長さが短く、1.2mしかありません。据え置き機と接続するにはもっと長い方が使い勝手が良いのですが、これの他はないため、仕方ない。
この『HDC114A/1.2』が発売されたのは2017年10月です。コネクターの規格が『ATH-AWAS』と同じ「A2DC」ではあるのですが、公式に対応しているとの記述はないため、実際のところ問題なく接続できるのか、不安がありました。
恐る恐る差し込んでみると。
無事に接続できました。良かった!
レビュー
装着してみると、アームの可動域が狭いのか顔のラインにフィットしません。イヤーパッドの下の方に隙間ができてしまいます。
しかし時間が経つにつれて、じわ~っと、イヤーパッドが少しずつ顔のラインになじんでいきます。最終的には、完全に隙間が埋まるわけではないものの、それなりに良い感じでフィット。そういう素材が使われているのでしょうか?
続いて、肝心の音を聞いてみます。結論から先に言ってしまうと、慣らし運転が必要でした。
はじめ、低音は厚みに欠けて存在感が薄く、中音・高音は響きがなくて淡泊。全体的に締まりが無く、音の輪郭がにじんで曖昧。情感のない曲がだらだらと流れていく。まるで粗製濫造された音でした。
不良品に当たってしまったのかと、不安になりましたが‥‥。
しかし、他のヘッドホンと聞き比べしながら2時間が経とうかという頃、不意に、音が変わります。
まず、曖昧だった音の輪郭が、どんどんと鮮明になっていきます。そして、低音が力強く据わった音になり、中音・高音はきらびやかになりました。
まるで能面のようだった音が、どんどんと表情豊かになっていきます。つぼみが花開く様子を早送りで見ているような、驚くほどの変化でした。
振り返ると、パッケージの裏側に貼られたシールの1枚には「2019-10」という印字がありました。これが製造月だとするなら、8ヶ月程度、倉庫に保管されていたことになります。もしかしたら、長期保管のせいで何か不具合が起きていたのかもしれません。
あらためてレビューします。
『ATH-AWAS』は、オーソドックスなヘッドホンに比べると、高音や中音が目立って強く、低音は控えめです。公式には「バランスの良い音作り」という触れ込みですが、これはあくまで「audio-technica」という枠の中での話であると捉えた方が良いです。一般的に言うところの“フラット”な音とは異なります。
ただし、低音が控えめと言っても、「貧弱」や「粗雑」といった感じではありません。音のメリハリ、伸びとキレは良く、質の良い低音です。
高音が強いと言うと、キンキンと音が耳に刺さることが心配されますが、あまりそういう傾向はありません。曲によっては刺さることもありますが、基本的には、抜けが良く刺さりません。冷たく響く音があれば、明るく光るような音もあり、曲のシーンによって様々な表情を見せてくれます。
中音の押し出しもそれなりに強く、特に、ボーカルはしっかりと聞こえます。
音の解像感はちょうど良い具合に調整されています。音の分離を追求したモニターヘッドホンとは違い、ひとつひとつの音の輪郭をはっきりとさせつつも、完全に断絶させることはせず、曲としての一体感は維持しています。
続いて、同時発売された『ATH-AWKT』と比較してみます。
『ATH-AWKT』に比べると、『ATH-AWAS』は音の解像感が一歩及ばない感じです。はっきりとした差があるわけではありませんが、じっくり聞き比べてみると、少し違うように思いました。
音のバランスは、『ATH-AWAS』の方がフラット寄りになっています。とは言っても、いわゆる“フラットバランス”でないことは前述の通りです。
全体として言うと、『ATH-AWAS』が選択肢となるのは、高音・中音に寄った音作りでありながらも、少し尖りを抑えたヘッドホンが欲しい、という場合になるのではないでしょうか。